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店長日記

ヒメオオ材割り採集のちキノコ日記③(‘14.10.31)

2014年11月19日



さて、10月31日は自身にとっては意味のある日です。
それは行き付けの有峰県立自然公園の林道の一つである小口川線がこの日を最後に冬期閉鎖になるということです。
有峰にはもう一つ本道の小見線があり、そちらは11月12日まで通行可ですが個人的には距離も長く利用者も少なく入山ポイントも多い小口川線ばかり利用しています。
ヒメオオの生息地は有峰全般に及ぶので何処から行ってもポイントはあるのですが、小口川線には閉鎖前に必ず材割りを行うのが恒例となっているポイントがあるので今年は最終日の31日がちょうど金曜日で定休日なのでその日に行くことを前もって決めていました。
本来なら10月は毎週のように有峰に行っていたのですが今年はキノコの発生が極端に少なく逆に八尾、利賀方面のナメコの発生が早かったためそちらに移行するのが早く、有峰の訪問回数が減ってしまいブナ材の採取に行くのが精一杯で材割りまで手が回りませんでした。
したがって31日は最終日のためそれ以上延期ができないので悪天候でも強行しなければいけません。
多少の雨なら気にはなりませんがある程度の雨量になったり標高が高いために雪になることも過去にはあったのでそうなるとその時点で閉鎖となってしまいます。
幸い、当日は昼から天気が崩れる予報は出ていましたが最悪の天候は避けられました。
林道に入ると標高の低い山はちょうど紅葉のピークですが高山の紅葉に比べてイマイチ色付きが綺麗ではありません。
冷え込みがあった後に気温の高い状態が続いたせいでしょう。
標高1,000m超でも紅葉の名残があるかと思ったのですが、着いてみると見事に葉は散り果てて枝はすでに丸裸状態。
おまけに曇り空で辺りはモノトーンの色調で観光客や工事関係者の人影も全くなく自分と山だけの世界で少しセンチな感じもしますが、むしろ落ち着いて材割りに集中できそうです。
そんなわけで寄り道せずにポイントに到着しました。




↑ ポイントにあるブナの倒木。
この倒木と出会ってもう10年くらい経つでしょうか、当時と見た目はあまり変わっていませんがだいぶ腐朽も進行しているようです。
この木も例年ならツキヨタケ、ブナハリタケ、ナラタケ、ナメコ、ブナシメジ、他の様々なキノコが出るのですが今季は年中着生しているツリガネタケ以外には10月上旬にツキヨタケとブナハリタケがわずかに出た程度でそれ以降は画像の通り全く姿を見ません。
木の状態が急激に変わることは考えられないのでキノコの方に何らかの原因があるのでしょう。

さっそく材割りをしようと目的の立ち枯れの株に向かいます。




↑ この株も当初は高さ5m以上、胸高の径で1m以上あったのですが内部が腐って空洞になっており年々上部から折れたり崩れたりしていき現在では自身の背丈よりも低くなってしまいました。
中が抜けているせいもあって材質はかなり柔らかくボロボロなのでヒメオオは地上高いところではなく根部に近いかなり堅い生部に入っています。
ただし中抜けになっている分辺材部の厚さが薄いせいか水分が多いせいか昔からあまり多くの幼虫はこの木では発見できません。
今回も画像の状態まで堅い生部を割り進んでやっと1頭の3齢幼虫を発見できました。
今までにも何回も書いていますが幼虫のいる部位の材質を見てください。
黒い拮抗線に囲まれた幼虫のいる部分だけほぼ生に近い腐朽の浅い堅い部位なのがわかるでしょうか?
これがどれくらい堅いかは実際に経験した人でないとわからないでしょう。
これ以外の食痕がほとんど見つからないので期待をせずにさらに割っていくと、




↑ あららら、羽化中のヒメオオのメスが出てきました。
羽化不全になる可能性があるので静かに取り出しルアーケースに保管します。
不思議なことにこの個体の蛹室は縦向きでした。
まあ、メスなのでさほど支障はなかったのでしょう。
この後、新たな食痕も出てこないのでこの材をあきらめて10mほど離れた別の立ち枯れの株に移ります。




↑ この株も先ほどの立ち枯れ同様、高さは1.5mほどですが毎年10頭以上の幼虫を割り出している有力な発生木です。
ただ、昨年は結構苦労したので今年も楽観はできません。
案の定、割っても食痕は多くあるものの生体が全く出てきません。
画像でも分かるように内部はほぼヒメオオの食痕で占められているので産卵木としては不適になったのかもしれません。
また、この林道のあちこちで一昨年より行われていた対岸の工事のため資材や重機の配置や往来が多なり、その影響かこのポイントではヒメオオの成虫の生息が全く確認できなくなったのでもしかしたら生息自体が激減した可能性も否めません。
環境の変化に敏感な虫であることは今までにも日記で書いてきたとおりです。

不安に駆られながらもこの株をあきらめてさらに少し奥にある今まで手の付けていない立ち枯れの株を割ることにしました。
この木も高さ2m余りの部分で本体は折れていますが胸高部の径で1m以上あり先ほどの2本に比べたらさらに一回り大きいです。
樹皮もまだ剥がれておらず産卵の期待はしていませんでしたが昨季ヒメオオと思われる脱出痕が複数あるのに気づいたので幼虫が採れる可能性は高いと思われます。




↑ 根際を割り始めてすぐに地中に向かう食痕が表れて間もなく出てきたのがこの真っ赤な新成虫のオスのヒメオオ。
先ほどのメスといい、どうもタイミング的に羽化の時期とちょうどぶつかったようです。
過去にもこの時期の材割りでは比較的多くの新成虫が得られていますが今季は羽化時期が例年より遅れているせいで羽化したての個体が出てくるのでしょう。
このことからも例年よりも冷え込みが弱いことが分かります。




↑ 次にまたメスの新成虫。
結局この後も含め1♂4♀の新成虫が出てきました。




↑ やっと出てきたオスの3齢幼虫。




↑ 材の状態も良好で食痕も比較的新しいものが目立ちます。




画像の狭い範囲を割っただけですが上記の新成虫、他幼虫10頭余りを得ることができました。
この材でこの先数年は幼虫を確保することができそうです。
さらに、昨年よりこの周辺では成虫の姿を全く確認できなくなりましたが、この幼虫の生息数を見る限り以前と状況は変わってなさそうなので安心しました。
ただ、昨年も書きましたが付近のヤナギで成虫の後食した跡がないのでヤナギ以外の樹液を吸っているのかもしくは離れたところまで移動しているのか今まで考えられていた生態だけでは説明できない事態になっています。
来年以降も観察を続けたいと思います。

気がつけば2時間半も手オノを振り続けてその疲労はオオクワの材割りとは比較にならず手の握力もなくなってきたので終了することにしました。
ヒメオオの産卵は飼育下ではかなり難易度が高いですが幼虫の飼育はカワラの菌床を使えば比較的容易なのでなんとか55mmを超える大型個体を出したいものです。

さて、山中から林道に降りてきて車に荷物を積んでいると一台のミニバンが来て横に止まりました。
「コケ(キノコ)け?」
と聞かれたので、下手にヒメオオのことなど言うと余計に話がややこしくなるしこの場合秘匿にするべきはコケよりもヒメオオのポイントであることなので、
「そいが。」
と答えると
「この上に入っとたがけ?」
と重ねて聞かれたので
「そうやけどなーんないわ、今年は出とらんがいぜ。」
と答えると
その採集者いわく長野の方ではキノコ全般に豊作だと聞いたが有峰では採れない。手前の低いほうでナメコが少し採れただけでこの先の下りた所にある倒木も採られた後でなかったという。
今季は早い時期から有峰はキノコは不作で普段来ている採集者は自身も含めて早々にあきらめているのにこの訪問者は通行可な最終日に来ているということは不作なのを知らないのかもしくはあきらめきれないのでしょう。
気の毒に思い
「もうここはあきらめてもっと標高の低い里山を狙った方がいいちゃ。」
と助言して別れました。
この日は自身はヒメオオが目的でナメコはほとんど頭になかったのですが、先ほどの採集者のこの先の下りた所の倒木という言葉が引っかかりマイポイントを見に行くことにしました。




車を止めて斜面を降りていくと予想通りナメコの採られた跡が。
この倒木は一昨年までは自身以外に誰も知らなかったはずで独り占めできたのですが一昨年採取しているところと車を停めておいたのを複数の採集者に見られて以降他者に採られるようになり昨年からは補欠に格下げにしたポイントです。
ナメコも有峰ではマイタケ同様に他者が入らないような深山まで行かないとお目にかかれないようになってしまいました。
結局、今季は有峰ではナメコの収穫がゼロという不名誉な結果になりましたがここの魅力はナメコだけに限られたものではなく、むしろそれ以外の恩恵が多いので来年もまた何度も訪れるでしょう。
それまでこの地は8ヶ月間の長きに渡り人の入れない眠りにつきます。
また新緑のまぶしい季節にお目にかかりましょう。

帰り際に少し下りていくと先ほどのミニバンが止まっており山側の沢沿いを先ほどの採集者が登っていくのが見えました。
よほどあきらめきれないのでしょう。
その姿を見ていたらこっちまで採りたくなってきました。
しかしここで探しても無駄骨になるのでとりあえず林道を下り切ってここから一番近い立山方面の昨年見つけたポイントに寄っていくことにしました。
と言っても夕方には子供を迎えに行かなくてはいけないし今の時期、曇っていたらただでさえ薄暗い山中ではせいぜい16時前後がタイムリミットです。
正味2時間足らずの持ち時間では多くの収穫は望めません。
もともと採る予定ではなかったのでナメコの顔を拝めればいいというつもりでこの地特有の猛烈なササとネマガリタケのブッシュに突入しました。




↑ ここも先日の県南部のポイント同様に立ち枯れの数の割りに現時点での発生量は昨年のピーク時には及びませんがそれでもポツポツと群生が見つかります。




全体の量は少ないもののちょうど採りごろの質のいいものが結構あります。
幼菌も出ているのでやはりここもピークはまだ先でしょう。




何だかんだ言って一通りポイントを周回しただけで6.21kgの収穫がありました。
時間効率を考えたらピーク時に近い収量を上げることができたので十分です。

さて、10月を終えるにあたってナメコの収量は現時点で30.66kgと、
過去最高の収量を記録した昨季の同時点の5kg余りと比べても大幅増となっています。
今のところ発生が早まっていることが奏功しているようですが11月ははたしてどうなるでしょうか?
キノコ採集はまだまだ続きます。